東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)175号 判決
審決取消事由の存否について判断する。
(一) 原告主張の特許法第三六条第四項違反について
(1) 原告の(1)の項における主張は、要するに、本件発明の明細書の発明の詳細な説明の欄には、加工材料を押出し式造粒機によつて、直径ほぼ一mmの棒状に押出し、短かく切断し、これを球形整粒機に入れて整形する旨が記載されているところ、造粒機によつて造粒された円柱状粒子を球形整粒機に入れて整粒すれば、その粒子は球状になるのが当然であつて、円柱状にはならないにもかかわらず、発明の詳細な説明の欄には、粒子を球形整粒機に入れて一定の大きさの円柱状(又は球状の)粒子とすると記載されており、これは、当業者において容易に実施することができる程度に記載されたものではないというにある。
しかしながら、成立について争いのない甲第五号証(本件発明の訂正特許公報)によれば、本件発明の明細書の特許請求の範囲は、事実摘示第二、二記載のとおりであることが認められ、これによれば、本件発明の、材料である粒子の製造過程及びその形状に関する要件は、「白色顔料と体質顔料との混合物を少量の酢酸ビニル系水性エマルジヨン又はアクリル系樹脂水性エマルジヨンもしくはその混合エマルジヨンと均質に混合し、これを押出し式造粒機を用いて棒状に押出し、短かく分断し、整粒して作つた直径ほぼ一mm」の粒子という点にあること、すなわち、その粒子は押出し式造粒機を用いて造粒し、その後これを整粒して作つた直径ほぼ一mmのものであれば足り、整粒の結果その形状を円柱状のものにするか球形のものにするかは、本件発明の構成要件をなすものではないことが認められ、押出し式造粒機を用いて造粒し、その後これを整粒すること自体は当業者が容易にこれを実施し得るものと認められるから、本件発明の明細書の発明の詳細な説明の項に「球形整粒機に入れて整形し、一定の大きさの円柱状又は球状の粒子とな」すとの記載があつたとしても、これをもつて当業者が容易に実施をすることができる程度に記載されたものでないとすることはできない。原告の主張は理由がない。
(2) 原告は、(2)において、本件明細書の発明の詳細な説明の項は、一方で、「押出し式造粒機を用いて……押出し、短かく分断し、整粒して球形となし」と記載し、他方で、「押出し式造粒機によつて……押出し、短かく切断し、これを球形整粒機に入れて整形し、一定の大きさの円柱状又は球状の粒子となし」と記載しており、両所における押出し式造粒機の作用の記載は矛盾している旨主張する。
しかしながら、原告主張の前段部分における押出し式造粒機の作用として記載されているのは、「押出し、短かく分断し、」までであつて、「整粒して球形となし」とあるのは、造粒機の作用としての記載でないことは、当業者ならずとも、明細書の記載全体からみて容易に理解し得るところである(球形に整粒するのは整粒機によつてであつて、造粒機で球形に整粒することができないのは、むしろ技術常識であると認められる。)から、原告主張の前段と後段における押出し式造粒機の作用についての記載にはなんらの矛盾もない。原告の主張は理由がない。
(3) 原告の(3)における主張は、要するに、本件明細書の発明の詳細な説明の項には、一方で粒子の形状が「球形」であるとし、他方で「円柱状又は球状」であるとしていて不明瞭であり、さらに、形状が円柱状のものは円柱の高さが円の直径の倍ないし数倍に及ぶ円柱状のものも含み、粒子がそのようなものであるときは、合板又はボード類の全表面に対して単一層として配布接着されず、平滑な表面を形成することは困難になり、明細書の作用効果の記載に対応しないというにある。
しかし、本件発明は、粒子の形状をその要件とするものでないことは、前説明のとおりであるから、原告の前段の主張はその理由がなく、本件発明における粒子は、加工材料を「押出し式造粒機を用いて棒状に押出し、短かく分断し」たのち、「整粒」して作られた直径ほぼ一mmのものであるから、整粒に際し、たまたま粒子中に円柱状のものが含まれているとしても、その円柱の高さが円の直径の倍ないし数倍のものがあるとは認められず、したがつてこれがあることを前提とする原告の後段の主張も理由がない。
(二) 原告主張の特許法第三六条第五項違反について
原告は、本件発明の明細書の特許請求の範囲における、「これを押出し式造粒機を用いて棒状に押出し、短かく分断し、整粒して作つた直径ほぼ一mmの乾燥粒子と」の記載は、本件発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものではないと主張し、その理由を、明細書の発明の詳細な説明の項における「押出し式造粒機」及び「直径ほぼ一mmの乾燥粒子」の記載は不明瞭な点を含んでいるのであるから、その「押出し式造粒機」及び「直径ほぼ一mmの乾燥粒子」の記載をそのまま含む特許請求の範囲の記載は、本件発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものとはいえないものとする。
特許法第三六条第五項は、明細書の「特許請求の範囲には、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならない」としているが、その趣旨は、発明の詳細な説明に記載せず、これを開示しない事項を、特許請求の範囲に記載すれば、開示されない発明も特許権により保護されることになり、そのようなことは特許制度の趣旨に反することになるから、特許請求の範囲には、発明の詳細な説明に記載して開示した事項のみを記載すべきこととしたものであると認められるところ、本件発明においては、押出し式造粒機を用いること及び直径ほぼ一mmの乾燥粒子を用いることは、明細書の発明の詳細な説明に記載してあること明らかであるから、本件明細書の特許請求の範囲の記載は本件発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものでないということはできず、本件明細書の発明の詳細な説明の項に記載された「押出し式造粒機」を用いること及び「直径ほぼ一mmの乾燥粒子」を用いることに関しては、なんの疑義もないから、原告の特許法第三六条第五項違反をいう主張は理由がない。
右のとおりであり、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は失当であるから、これを棄却することとする。
〔編註〕 本件発明の要旨は左のとおりである。
白色顔料と体質顔料との混合物を少量の酢酸ビニル系水性エマルジヨン又はアクリル系樹脂水性エマルジヨンもしくはその混合エマルジヨンと均質に混合し、これを押出し式造粒機を用いて棒状に押出し、短かく分断し、整粒して作つた直径ほぼ一mmの乾燥白色粒子と、これを適宜の色に着色した乾燥着色粒子とを目的の色に配合し、これを表面に接着剤を塗布した合板又はボード類の粘着状態にある接着剤層上に均等に散布して全表面に粒の単一層を形成し、軽く加圧して平滑面となし、接着剤を乾燥せしめることを特徴とする合板又はボード類の化粧加工法。